「そろそろ、行こうか?」


楽屋の隅、相棒のドラムスティックを握って、
手首の柔軟を繰り返すオレに託実の声が降り注ぐ。


メンバー全員が、それぞれに椅子から立ち上がってドアの方へと向かっていく。


Rapunzel【ラプンツェル】からAnsyalへ。



そして……当時のリーダーだった初代Taka・宮向井隆雪【みやむかい たかゆき】の事故による入院以来、
メンバーは変わった。


隆雪の弟・雪貴【ゆきたか】が紡ぎだす音色が今はAnsyalの一部として、ここに集まってくるファンの皆を魅了する。


季節は移りさり時は紡がれていく。



「セッティング終わりました。

 ライト落とします。
 Ansyalの皆さん準備お願いします」




ステージに繋がる階段の傍。
メンバーで円陣を組んで気合を入れる。



掛け声と共に順番にステージの光の中へと歩いていく。





会場内に湧き上がる歓声。





……overture……。





バイプオルガンとヴァイオリンの音色が厳かに響き渡り、
会場内を幻想空間へと誘っていく。


軽く眼を閉じて、拍を心の中でカウントして準備を整えると、
メンバーの誰よりも先に光世界へと足を踏み込んだ。



ステージの中央、真っ直ぐに進んでドラムスティックを天に突き上げて、
お辞儀をする。




『憲~』




会場内から、オレの名前を呼んでくれる歓声が聞こえる。
ゆっくりと体を起こして観客内に視線を向ける。