楽しめないお茶の時間を終えて、エリーシャは皇女宮に戻る。

「あーあ、いつかは持ち出してくるんじゃないかと思ってたんだけど」
「お見合いの話ですか?」

 祖母に会うためだけに身につけたドレスを脱がせながら、イリアがたずねた。

「レヴァレンド侯爵の長男、ダーシーよ」
「あらあ」

 遠慮ない口調でファナが口を挟む。

「確か、もう三十ですよね。一回ご結婚なさったんだけど、奥様を亡くしたって――」

 ファナは、イリアと較べると噂話が好きで、リリーアやセルヴィスのところの侍女とはともかく、皇帝宮の侍女とは比較的親しくしている。
 
 宮中の噂話はたいてい彼女が仕入れてくるのだ。
 
「何が悲しくて、三十過ぎのおっさんと見合いしなきゃならないんだか」

 三十でおっさん呼ばわりは気の毒ではないかとアイラは思ったのだが、イリアもファナもうんうんとうなずいているので、皇女に同調しておいた。

「アイラに気の毒だから、逃げるのはやめておくわ。明日お見合いなんて、あまりにも急だもの。おばあ様も何か企んでいたりして」
「後宮は陰謀がいっぱいですね」

 ファナはくすくすと笑いながら言ったのだが、エリーシャの厳しい表情は、緩むことはなかった。