「大丈夫? 少なくとも、みっともなくはないわよね――?」

 エリーシャは、鏡の中を見て自分の身支度を確認する。それから、アイラについてくるように命じた。

 薄緑色のドレスに銀のショールを羽織ったエリーシャは、皇女らしい足取りで廊下を進む。灰色の侍女のお仕着せを着たアイラも彼女にしたがった。

 皇后の部屋は、皇帝宮の一画にあった。私室は一番日当たりのいい部屋を使っている。

「エリーシャ様のおつきでございます」

 侍女が告げるとすぐに入室の許可が出た。エリーシャはアイラに一つ目配せして、迷うことなく足を踏み入れる。

 室内は広く、豪華だった。長い年月の間、大切に使われてきたのだろう。磨き込まれたテーブルには銀のティーセットが置かれている。

 干した果実を使ったケーキを切り分けながら、皇后は単刀直入に切り出した。物事を率直に口にするのは、皇帝の一族特有のものなのだろうか。

「レヴァレンド侯爵の長男と見合いをなさい」
「……おばあ様、お見合いなんて――」
「血を残すことが急務なのを忘れたの?」

 エリーシャは黙り込んでしまう。皇后オクタヴィアは年を重ねた今も美しい女性だった。