お茶のカップを二つトレイに乗せて戻ると、イヴェリンは軽く手をあげて応える。

「――お茶です」

 どん、と乱暴にカップをテーブルに置くがイヴェリンは気にした様子もない。アイラは、気持ちを落ち着けようと砂糖を山盛り三杯入れてかき回した。

「さて、君の今後についてだが――後宮に入ってもらう」

 口に入れたばかりのお茶をアイラは吹き出した――それはもう盛大に。
 かろうじて横を向くだけの配慮はできたから、イヴェリンの真っ白な制服に茶の飛沫をかける醜態は演じなくてすんだけれど。

「ちょ、後宮って――」

 タラゴナ帝国の皇帝は後宮に何人もの愛人を抱えている。現在の皇帝ルベリウスも例外ではないが――彼の年齢は六十五歳。アイラとは祖父と孫と言っていいほどの年齢差だ。

「お金がないってつらいんですね。まさか、皇帝とはいえじーさんにいいようにされるとは――」
「おいおい」

 一気に飛んだアイラの想像を、イヴェリンは苦笑でいなした。

「後宮に入るといってもそれがイコール陛下の愛人とは限らないんだぞ。だいたい、考えてもみろ。わたしの所属は皇女近衛騎士団だ――陛下の愛人をスカウトするには少しばかり役職が違うとは思わないかね?」