「申し訳ございません!」

 目の前にいたのは、皇帝ルベリウスその人だった。

 今は家族だけの場だろう。アイラが日頃見かける公式の場に出るときの衣服とは違って、正装とはいえ、重々しいマントや冠までは身につけていなかった。

 あれ? とアイラは首を傾げる。こんなに皇帝陛下を間近に見るのは初めてだったけれど、この雰囲気は誰かを思い出させる。それが誰なのか、思い出すことができなかった。

「エリーシャのもとに上がったと聞いている。なかなか大変だと思うが――よろしく頼むぞ」
「は、ははははい、当然でございますっ! 一生懸命見張らせて――いえ、頑張らせていただきます」

 アイラの返事に皇帝は大声で笑った。それからアイラの耳に口を近づける。

「面倒だろうが、夜遊びにつき合ってやってくれ。いくら何でもあれを野放しにしておくわけにもいかんしなぁ」

 それから皇帝は何もなかったかのように、食卓の方へと歩いて行く。

 アイラは失礼になるのも忘れて、その後ろ姿を呆然と見送った。

 今、夜遊びにつき合ってやってくれとか言われなかったか? これはあれか、エリーシャの夜遊びは皇帝公認ということか――さすがだな、皇帝!