アイラが慌てて皇女宮に戻ると、エリーシャはすでに本を床一面に広げていた。その姿が父に似て見えて、アイラは思わず目をこする。

「お茶持ってきてくれた?」
「はい、エリーシャ様――ここに置きますね」

 お茶とクッキーを山盛りにした皿をアイラはテーブルに置いて、エリーシャの側に近づいた。

「せっかく、本を借り出してきたのに目を通す時間がなかなかないんだもの」

 エリーシャはぼやいた。

「何をお探しなんです?」
「……」

 アイラの問いにはエリーシャは答えようとしなかった。髪を後頭部の高い位置でまとめたエリーシャは、うつむいたまま本のページを繰っている。

 アイラは、先ほどの団長夫妻との会話を思い出した。

「クリスティアン様とは、どういったお方なんです?」

 と、アイラがたずねると、イヴェリンが説明してくれた。クリスティアンは、かつてエリーシャの婚約者だった男だ、と。