エリーシャは時々先に稽古を切り上げて皇女としての公務に赴くこともある。午後はたいてい家庭教師との授業の時間だ。政治や経済など学ばなければならないことがたくさんあるのだそうだ。

 しばしば後宮を抜け出して、夜の繁華街に出かけているエリーシャだったが、そういった義務をさぼることはあまりなかった。

 アイラや他の侍女たちはエリーシャの公務に同行することもあるし、皇女宮で待機していることもある。

 基本的には、平和な日常といえた。

 アイラの父、ジェンセンの研究室から持ち出された資料は、皇女宮の一室に並べられている。

 エリーシャは、しばしばそこに引きこもっていたが、何を探しているのかアイラたちに教えようとはしなかった。

 ある朝、エリーシャは稽古を終えるとアイラを呼んだ。

「これから、ジェンセンの本を置いた部屋にこもるわ。あなたは、後から来てくれる? イリアにお茶の用意をさせて、ついでに持ってきてちょうだい。あと、クッキーは山盛りでお願い」
「かしこまりました」

 アイラは頭を下げる。