父が宮廷魔術師だったというのは知っていたし、宮廷を辞してからも大枚はたいて書物を取り寄せては熱心に研究をしているのも知っていた。

 飲んだくれてふらふらしている父でも、自宅に設けた研究所にいる姿だけはアイラも尊敬していた。けれど、最高の魔術師だったなんて言われても信じられない。

「わたしの知ってる父は、時々まともだけど大概くそ親父ですよ。だいたい、わたしがここにいるのだって、借金の肩代わりですからね。ゴンゾルフ団長に売り飛ばされたようなものです」

「知ってる。ゴンゾルフから話は聞いてるわ。借金の証文あって、ラッキーだとも思ったけど」

 悪びれない顔でエリーシャは言った。アイラに空になったグラスを突き出してお代わりを要求する。お代わりを注ぐと、それは一気にあおられた。

「ラッキーってどういうことですか?」
「あなたをわたしの側に置く理由ができたから」
「わたしを、エリーシャ様の側に……?」

 ひょっとして、平凡な自分でもエリーシャは必要としてくれる?

 やっていることはいろいろめちゃくちゃだけど、光の女神のように眩しいこの人が。
 
 それを嬉しいと一瞬喜んだのに、エリーシャは次の瞬間それをぶちこわした。