酒かよ――とはつっこめなかった。主の命令には従わなければ。ワインの瓶とチーズを抱えて戻ってくると、エリーシャはソファの上で膝を抱えていた。

 アイラはグラスにワインを注いで、エリーシャの前に差し出す。皿に盛りつけたチーズをその隣に並べると、自分は床のクッションに座った。

「フェランはねぇ、たぶん、アイラ自身に興味があるんだと思う」
「わたしに? 騎士様に興味持たれるような理由ないですよ」

 さらりとアイラは自分自身のことを下に落とす。

 エリーシャはグラスのワインを一息に空けた。アイラはすかさずお代わりを注ぐ。

「まあ、あれは女なら誰でもいいってとこがあるのも事実だけどね」

 ばさりと切っておいて、それからエリーシャは真面目な表情になった。

「とりあえず、フェランは置いとくとしても、よ――さっきも言ったけど、気になるのはセルヴィスの方」
「セルヴィス殿下、ですか?」

 また、グラスが空く。アイラはお代わりを注ぐ。

「あなた知ってた? セルヴィスの母親のリリーアってこの国の人間じゃないのよ」
「ああ――、そう言えばそうですね。忘れてましたけど」