フェランはアイラの素顔を知っているけれど、名門貴族の指定なのだから相手ならよりどりみどり。わざわざアイラを誘う必要はないはず。

 急遽モテ始めたのなら嬉しいけれど――この誘い、裏がある。

 アイラのような平凡な人間を、欲しがるには何らかの事情がなければならないのだ。

「――ありがたいお申し出ですが、殿下」

 アイラは一礼する。

「ゴンゾルフ団長と契約しておりますので勝手に契約先の変更はできないんです、殿下――では、失礼いたします」

 裏がある誘いになんて乗れるか、こんちくしょう。アイラは皇子を残して急ぎ足にその場を立ち去った。