肩をすくめて、エリーシャはアイラを侍女部屋へと押しやる。

 アイラが黒のすとんとしたワンピース一枚を着て戻ってくると、エリーシャは着替えを終えたところだった。

「――それじゃ動きにくいじゃない。まあ、仕方ないわ。それとあなたの家の鍵持ってる?」
「――一応、ここに」

 エリーシャは何を考えているのだろう。眉を寄せるアイラにはかまわず、彼女はついてくるように合図する。
 
「あの、後宮から出るのって許可がいるんじゃ――」
「わたしが許可出してるんだから問題ないでしょ」

 そこ? いや、エリーシャが勝手に後宮を出ること自体おかしいのではないだろうか。アイラがまごまごしているうちに、エリーシャはどんどんと皇女宮を奥の方へと歩いていく。

 たどり着いた先は、小さな部屋だった。窓こそあるものの、置かれている家具も長い間使われた気配はなく布で覆われている。

 エリーシャは壁に迷わず進むと、そこにあった壁に備え付けられている燭台に手をかけた。くいと傾けると壁が開く。

「……あの、これって」
「隠し通路」