「したわ、でも……そうね。正面から顔を合わせることはしなかったから」

 あまりにもひどい有様だったからと、遺体との対面は遠目からほんの一瞬許されただけ。それでも髪の色と体格からクリスティアンに間違いないと今この瞬間まで信じていた。

「……生きていたなら、どうして連絡をくれなかったのかしら……」

 両手でカップを包み込み、手を温めるようにして、エリーシャは嘆息する。ジェンセンが同情するように首を振った。

「二年の間、何があったのかはわかりません。そこも探りたかったのですが、ね……陛下にお借りした魔術師をこれ以上失うわけにはいきませんので」

 エリーシャの視線が落ちるのを、アイラは何も言えずに見つめることしかできなかった。

「必要ならわたしがもう一度ダーレーンに入っても――」

 それまで口を挟むことなかったベリンダが口を開く。

「やめとけ」

 ジェンセンがローブの袖をまくり上げる。

「俺もやられた――クリスティアン様がダーレーンにいるというのなら、慎重になる必要がある」

 ジェンセンの左腕が肩から手首まで包帯に覆われているのを見て、アイラは息をのんだ。