アイラが後宮に戻ってから、数週間が過ぎた。今のところ、切れたエリーシャが外に遊びに出かけている気配はない。

「エリーシャ様、パリィからの連絡がありました」

 怪我をして帰還した密偵のパリィは、皇女宮で動けるようになるまで養生した後、すぐに街に戻っていた。

「連絡って?」
「ダーレーン王族が、三名続けて死亡したそうです。タラゴナ帝国内まで噂が入ってくるということは、あちらはそうとう混乱してるということでいいんでしょうか」

 アイラには難しいことはわからない。受け取った報告をそのままエリーシャのところに上げる。

「でしょうねえ。でも、セシリーの動きが見えないわね。ユージェニーは何をしているのかしら」
「そのうち連絡があると思いますよ、皇女様」

 アイラたちは、エリーシャが皇女宮内にもうけた図書室にいた。アイラの家から運んできたジェンセンの書籍をおさめた図書室だ。

「新しい本が届いたんですよ、父から。あの人どこで何をしているんでしょうねぇ」

 アイラはパリィからの報告と一緒に手にしてきた本をエリーシャに差し出した。