「金銭じゃありませんよ、エリーシャ様」

 ジェンセンは顔の前で立てた指を振って見せた。

「女帝ウォリーナの槍――そいつをちらつかせれば、ユージェニーの興味を引くことができる」
「おい、ジェンセンちょっと待て!」

 ライナスが怒りをはらんだ声で腰を浮かせかけた。女帝ウォリーナが、タラゴナ帝国を建てた際、持っていたとされる槍は後宮の奥深くにしまい込まれている。

「ウォリーナの槍とはどういうことだ」

「ちょっと、ライナス落ちつけ。俺もお前も魔術は専門外だろうが。ジェンセンの話を最後まで聞いてやれって」

 意外にもライナスの袖を引いて座らせたのはフェランだった。ライナスが居心地悪そうに座り直すと、ジェンセンは再び口を開く。

「何もウォリーナの槍を渡せと言ってるわけじゃないんですよ。ユージェニーが若返りの魔術を使う時、一度だけ貸してやればすむ話だ」

「若返りの魔術?」

「若返りの魔術を使う時は、無防備になるし、まあ体に負担をかけるわけだからそこで魔術を使うのは魔力の制御が難しいんだ。それを何度もやっているユージェニーもある意味化け物だがな」