そしてリリーアというのは皇太子の二番目の妃である。皇太子との間にセルヴィスという皇子を設けてはいるが、彼の皇位継承順は二番目だ。

 始祖が女帝だったということもあり、タラゴナ帝国において皇位継承順は男女関係なく、生まれた順に継がれていくことが決められている。

 現在の皇帝ルベリウスには後宮に何人かの愛人がいるが、これ以上子どもを設けるつもりはないようだ。魔術師によって、子どもをなせないようにする処理が施されているというのが世間の噂だ。

「とにかくリリーア様はわがままらしくてねー」

 ファナは容赦なく言った。

「夜中でも酒持ってこい、お茶持ってこい、やっぱり薬だ侍医を呼べ、とうるさいらしいわ」
「ま、うちの皇女様は変わっているから」

 あけすけな口調でイリアは肩をすくめた。

「そろそろお帰りの時間よ。あなた、今日から何しなさいって言われてる?」
「特には――明日には剣の稽古を始めるって言ってましたけど」

 一応、家から自分用の剣も持ってきた。鞄と一緒に抱えてきたそれを侍女たちの寝室のうち一室に放り込む。

「エリーシャには護衛はいらない」というイヴェリンの言葉も気になったけれど――侍女の服装でどこに剣を持ったらいいのかわからなかったというのもある。