地面に倒れた男が派手な悲鳴を上げた。その間にイヴェリンは自分に向かってきた男の腹に蹴りを叩き込み、横にした剣で頭をぶん殴る。

 彼女の足の下から、ぐぇっという音が聞こえてきたが、それは当然のごとく黙殺された。

「……朝食前の運動にもなりゃしない」

 地面に剣を放り投げて、イヴェリンは息をついた。

「そーですねー、おねーさまー。とりあえず、お役人様でもよびましょーかー」

 完全な棒読み口調になったアイラは、荷物の中からロープを取り出し、手際よく男たちを縛り上げていったのだった。

 イヴェリンもフェランやライナスのことを言えないではないか。古書店のお姉さんを装うにはちょっとやり過ぎである。

「ありがとうございます! 助かりました!」

 荷馬車の主は、イヴェリンを拝むようにしていた。その首に、黄色い布が巻きつけられているのを見て、アイラはイヴェリンの袖を引っ張る。

「……いえ、とんでもありませんわ。おほほほほ。積み荷は無事ですか?」

 今頃装っても遅いとアイラは思うけれど、主は女神を見つめるような目でイヴェリンを拝んでいた。