ふいに前方から大きな悲鳴が響いてきた。アイラとイヴェリンは顔を見合わせる。この場合、二人は町民を装っているのだから悲鳴の方に走っていくわけにはいかないのだろうけれど。

「行くぞ!」

 身に染み着いた騎士の本能がイヴェリンを悲鳴の方へと向かわせる。

「武器ないですよ!」

 アイラは喚いた。何しろ二人とも念のための短剣しか持ち合わせていない。悲鳴に似たアイラの声にはかまわず、イヴェリンは走り出した。

「もうー、知らないんだから!」
 破れかぶれになってアイラもそちらの方へと走っていった。
 夜明け前のこの時間、早めに出立する商売人たちが運ぶ積み荷を狙う強盗は少なくない。イヴェリンもそう思ったからこそ、迷わず悲鳴の方に走り出したのだろう。

 走りながら、アイラは短剣を抜いた。エリーシャの元に上がってから仕込まれた二刀流。どこまで通用するかはわからないが、単なる強盗くらいならどうにかなるはずだと信じたいところだ。