「お前についてこいと命じた覚えはないんだがな。何を勝手についてきている?」

 商家の女性を演じるならば非常にまずい恐ろしい形相で、イヴェリンは言った。

「勝手じゃないですよ……それに、あいつも一緒だし」

 フェランが指さした方向から、ゆっくりと歩いてくるのはライナスだった。

「何故、あいつまでいるんだ!」

 イヴェリンは額に手を当てる。アイラの口がぽかんとあいた。
 フェランの分まで荷物を持ったライナスが、仏頂面でこの場に到着しようというところだった。

「ライナス」
「ゴンゾルフ団長の命令ですよ、イヴェリン様」

 呼びかけたイヴェリンの言葉を、ライナスは右手を上げることで制した。

「何故、そうなる」
「心配だったのでしょう。影ながら護衛しろと」
「結婚後、一人で任務に出るのは初めてだったからではないですか?」
「馬鹿か、あいつは! 護衛くらい一人で大丈夫だ!」

 珍しくイヴェリンがきぃっとした表情になる。

「というわけで、手代とかそんな感じで連れて行ってくださいよ」