書棚には入りきらなくて、床の上にまで本が積み上げられている。どこか懐かしい空気に、アイラはほっとしたような気になった。

「あなたの部下、借りられない?」

 その気になればいくらでも演技できるくせに、エリーシャは基本的には単刀直入だ。

「わたしの部下をどうしようと?」

「ダーレーン国内に入れたいのよ。セシリーも行方不明だし、レヴァレンド侯爵は死亡。手がかりといえば、ダーシーの記憶を無理矢理掘り出すか、生き残っている屋敷の使用人たちの証言をどうにかして引っ張り出すか、残された遺体を調べるしかない」

「いずれにしても時間がかかりますな」

 全てを飲み込んだような顔をしてジェンセンは言う。

「そうなのよ。調査の結果が出るのを待っている間にも、やれることはいろいろあるでしょ。だったら、ダーレーン国内に密偵を入れるのが早いかなって」

 エリーシャの方もあけすけな口調で語る。

「悔しいけど、後手に回っているのは否定できないのよ。何人もの犠牲が出ている。敵の狙いはわたしなのかと思っていたけれど、どうやらそれだけじゃなさそうだし」