まだ、剣の稽古に戻ることのできていないアイラをゴンゾルフが近衛騎士団の団長室に呼びつけたのは、翌日のことだった。

 稽古の時の動きやすい格好ではなく、侍女たちが身につけるお仕着せのまま皇女宮を出る。

 団長室には、クッキーの甘い香りが漂っていた。

「いらっしゃい。ちょっとお話しましょうよ」
「はぁ……」

 並べられたクッキーはどれもおいしそうなきつね色に焼けている。

「ご用ではなかったのですか?」
「ん? 用もあるのだけどね」

 妙にしなしなとした動作でゴンゾルフはお茶を注ぐ。見てくれは熊男なのに、だ。

「昨夜、ジェンセンが来てたのですって?」

 ぎくりとしてアイラは上目遣いに騎士団長を見やった。イヴェリンがいてくれればいいのに。救いをもとめて室内を見回しても、彼女は騎士たちとの稽古に行ってしまっている。

「あうー、あのですねぇ」

 バカ親父がごめんなさい、と頭を下げようとした時だった。