まさか、これ全部一人で食うつもりなんだろうか、とアイラはじろじろと熊男の顔と甘味の山の間に視線を往復させる。

「まあそれはともかく、よ。とりあえず、甘いものでも食べてちょうだい。こんなところに連れてこらえて落ち着かないでしょう?」

「ゴンゾルフ。おやつタイムは話が終わってからにしろ」

 イヴェリンは夫を名ではなく姓で呼んだ。

「ああ、気にしないで。わたしの名前は、女帝ウォリーナからとられたの。そのまま名乗るのは恐れ多いでしょ。だから妻にも名字で呼ばせているの」
「はあ……」

 なんだかさっきから気の抜けた返事ばかりしているような気がする。気を取り直して、アイラはゴンゾルフにたずねた。

「父がゴ――ゴンゾルフ様に借金してるって本当ですか?」
「嘘ではないわ。言われるままに貸したわたしも悪かった、とは思っているんだけど、借金は借金でしょ? 責任もって返してもらうからそのつもりでいてちょうだい」
「――返しますよ、返しますってば」

 父に後宮に売り飛ばされたのだ。どうせ、逃げたところでこの二人が本気になればすぐに見つかるだろうし、逃げられるはずもない。

「それで、わたしは何をしたらいいんですか?」
「エリーシャ様の侍女だ」

 見せびらかすように長い脚を組んでいたイヴェリンが言う。