「緊急事態だと思ったもので」

 しれっとした顔で、ジェンセンは床に直接座り込んだ。魔術師のローブが床に広がる。

「――後宮、それに皇女宮に入り込むなんてなかなか大胆不敵ね」

 くすりとエリーシャは笑って、ジェンセンを手招きした。

「昔取った杵柄というやつでね。皇宮全体に施されている防御結界をすり抜ける術を心得てるってわけですよ、エリーシャ様」

 エリーシャは口元を歪めた。

「さて、教えてちょうだい。なぜ、あなたは死者に関する術を探ってるの?」

 ジェンセンは、ぽりぽりと頭をかく。

「さてと、皇女様。この後宮は大きく分けて二つのグループに分けられるということはお気づきですか?」
「二つのグループじゃないわ。三つでしょ」

 エリーシャは肩をすくめた。

「一つは、おばあ様、リリーア、セルヴィス。もう一つがおじい様と愛人たち。それにわたし」

「いえいえ、エリーシャ様。皇帝陛下はエリーシャ様側ですよ」