自分の家だというのに、アイラは緊張していた。後ろから何者かに追われているのではないか、狙われているのではないかという不安に襲われる。

「――アイラ」

 まさか自分がこんなことに巻き込まれるなんて思っても見なかった。だいたい、父のことだって研究熱心だけどぼんくらだとばかり思っていたのに。

「大丈夫か?」

 父の机の前に立ったまま動けないアイラに、フェランが声をかけた。

「……大丈夫です」

 フェランがアイラの腕をとる。

「帰る前に飯でも食べていかないか? うまい店を知ってるんだ」
「遠慮しときます。さっさと帰りたいんで」

 狙われているかもしれないというのに、のんきに外をうろつく気にはなれなかった。

「えー、二人で逃避行した仲じゃないか」
「誤解を招く言い方はやめてください。追っ手から逃げただけです」
「――アイラは俺につれない」
「愛想よくする必然性を感じません」