アイラはふんと鼻を鳴らした。フェランの戯言につき合っている場合ではない。今回の外出も、フェランと楽しくデートしているわけではないのだ。

 アイラは出た後、繁華街をつっきって、自分の家へと戻った。アイラの数歩後をひょこひょことフェランがついてきているのは気づいていない振りをする。
 
 久しぶりの自宅は、どこかよそよそしいように感じられた。家を出る前に大家に頼んであったから、時々風を通すことはしてもらっているものの、人の気配のない家はがらんとしている。

 父が帰ってきた気配はなかった。やれやれとため息をついて、アイラは皇女からの伝言を父の机に残す。

 仮に何者かが押し入ってこの手紙を見たとしても、何を意味しているのかはわからないだろう。アイラ自身の手で、今働いている場所に会いに来て欲しいと書いてあるだけなのだから。

 その裏にある情報をよこせというエリーシャの意図まではわかるまい。わかるとすれば――皇女に敵対する何者か――アイラが後宮に勤めているだけではなく、同時に「保護」もされていると知っている者のみ。