馬車には別荘中からかき集めてきたクッションが敷き詰められている。恐れ多くも座席の一つをアイラが占領し、皇女と侍女二人は床の上と座席に別れて乗り込んだ。

「――席、占領しちゃって――」
「いいのいいの。アイラは怪我人なんだから」

 それにしても、とアイラは馬車の座席に頭をもたせかける。父はどこに行ってしまったのだろう。

 こうして、皇女一行は予定よりずいぶん早く後宮に戻ることになったのだった。

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 戻った皇宮は大騒ぎだった。裏で糸を引いているのが皇后だったとしても、証拠は何もない。おまけに化け物たちの存在は秘密にするようにと言われている。

 皇女滞在を知った何者かによって別荘が急襲されたが、騎士たちの活躍によって皇女は無事に救出されたというのが貴族たちに公表された事実だった。

 帰城と、状況の説明に赴いたエリーシャは、渋い顔をしながら帰ってきた。

「よく考えたらおばあ様も狸よね! わたしなんかがかなうはずないのよね」
「どうなさいました?」

 イリアがたずねる。