いざ出発という時になってもめたのは、アイラがどうやって馬車まで移動するかという点だった。

「……自分で歩けますって」

 アイラはそう主張したものの、いざ立ち上がろうとすると傷が痛くて、まっすぐに立っていることさえできない。

「俺が抱えていってやる」
「――間に合ってますって――!」

 もう一度主張するが、間に合うもなにもアイラが移動しなければ、どうにもならないわけで結局フェランに横抱きにされていくことになってしまった。

「羨ましいわぁ、フェラン様のお姫様だっこ」

 そう言うファナと変われるものなら変わってやりたいけれど、そういうわけにはいかないだろう。

 アイラの素顔を知っているのは、限られた者たちだけだ。だから、アイラはこんな時でもいわゆる不細工メイクを施すことになってしまった。

 頭からすっぽり毛布にくるまっているから、今はその下の素顔を見るのもなかなか難しい話なのだが。

 意外にもフェランはごく丁寧にアイラを座席に座らせて、自分の持ち場へと下がっていった。