「――本当に後宮に行っちゃうんだから」

 アイラはつぶやいた。

 研究所は、床の上に魔術書があちらこちらに散らばっている。足の踏み場もないそこで、たまにまじめに研究している父の姿だけはアイラは尊敬していた。

「……父さんが帰ってきても、掃除する人はいないんだけどね」

 少しだけアイラもしんみりしてしまう。先ほどイヴェリンが言っていた。後宮に入ったら自由に出ることはできない、と。

 父が戻ってきたと噂で聞いても、簡単に会うことはできなくなるだろう。

 後宮に入って、何をさせられるのかは知らないがとにかくできることをやるだけだ――アイラはしんみりしかけた自分を奮い立たせると、猛然と研究所の掃除を始めた。

 研究所の掃除を終えてから、着替えと生活用品を鞄に詰め込み、長期で留守にする家の始末を大家に頼む。

 深夜近くにばたばたと眠りについて、目が覚めたのはイヴェリンが迎えにくると言っていた時間の少し前だった。

† † †