荷造りをするのに侍女たちは多少時間をとられたけれど、エリーシャは華美な衣服も宝石類も持って行く予定はなかったから、徹夜作業にはならなかった。

 こうして、翌朝には四人は一つの馬車に乗り込んでいた。三人の家庭教師はもう一台の馬車に乗せられている。

 馬車の周囲は、皇女近衛騎士団の騎士たちによって厳重に警戒されている。
 
 宮中での勤めもあるゴンゾルフは来なかったものの、イヴェリンとフェランとライナスは同行していた。

 エリーシャが選んだのは、ウォル・タラゴナから馬車で一日行ったところにある皇帝家の持つ別荘だった。

 もともとは代々の皇族たちが長患いの後、療養するのを主目的として建てられた別荘だが、周囲には風光明媚な場所が多いために休暇を過ごす場としても使われている。

 子どもたちが遊ぶのにちょうどいい森や湖も近くにあって、エリーシャも幼い頃はここで夏を過ごしたらしい。

「急なお越しで驚きました」

 この別荘を預かっている家令がエリーシャとその侍女たちを出迎えた。