「皇女殿下には初めてお目にかかります。ご機嫌麗しく――」

 こりゃだめだとアイラは勝手に結論づけた。見た目だけではなく、声にも生気がない。この男とエリーシャを結婚させて、皇后はどうするつもりなのだろう。

 ――エリーシャが尻に敷きやすい相手を選んだと言われれば、ものすごーく納得するが。

 アイラのいる位置からは、エリーシャの後ろ姿しか確認することはできない。

 エリーシャは首を少し傾けて、アイラが「皇女スマイル」と密かに名付けた笑みを振りまいているようだった。

 皇女スマイルを繰り出す時は、首が常に同じ向きに傾けられるからわかる。
 
 皇女宮に勤めるようになって、それほどたっているというわけではないけれど、アイラもその程度のことは理解できるようになっていた。

 テーブルに茶の用意を調えた侍女が下がっていく。入ってきた三人のうち、一人だけが皇后の後方についた。

 アイラは彼女を横目で観察する。何度か見かけたことのある侍女だ。彼女もアイラと同じ護衛の任についているのだろう。

 アイラがきょろきょろしているのとは違って、皇后の後ろ姿から目を離そうとはしない。