「圭吾くんはこんなところにいてていいの?」

選手はたしか別の場所で休んだり待ったりできるはず。

こんな一般客が出入りするところで圭吾くんが歩いてたら、そりゃ囲まれるよ。


「あー俺レース前は緊張してじっとしてられないタイプで」

圭吾くんが緊張するなんて意外だ。

しかも大きな舞台といってもまだ予選だし。高校生記録保持者だから余裕で高みの見物をしてるって思ってた。


「スタート台に立つとやるしかない!って覚悟が決まるんだけど、待ち時間がどうも苦手で」

「そうなんだ」

「レース前に寝れるぐらい落ち着いてるのは恭平ぐらいだよ」


須賀はこんなところでも寝てるのか。

相変わらずというか、いつもどおりというか……。


「でもすずちゃんと話したらちょっと落ち着いた」

「え?」

「この前のこと怒ってると思ってたから」

「あれはぶつかってきた陸上部員のせいで……」

「うん。でも嫌われたくないからさ」

そう言ったあと、同じ学校の仲間が圭吾くんを慌てて呼びにきて早くレースの準備をするように連れていかれてしまった。


人気者のくせに私に嫌われたくないとか、すごい実力の持ち主なのに緊張しやすいとか。

もっと完璧な人かと思ってたけど、すごく人間らしいというか、普通の人と変わらないんだなって思った。