食事のあとの和やかな流れの中で、ゆっくりと説明しながら告げるつもりでい

たが、こうなっては悠長なことは言っていられない。

何を待つんですかと問い詰めるお袋の目を直視する。

強い視線を向けられ一瞬ひるんだ顔に、ひと息に告げた。



「今後、このような話が持ち込まれても、すべて断ってください。

こちらから持ちかけることもやめてください。一切応じるつもりはありません」


「宗さん、急にどうしたの」


「交際している女性がいます。

彼女以外の……ほかの女性との将来は考えられないので」


「……ほかの方とは、結婚を考えられないということなのね」


「はい」



お袋の声は震えていたが、しっかりと私の意思確認を聞いてくるところはさす

がだった。

長い沈黙のあと、わかりました……とお袋の静かな声が響いた。

もう食事などする気分ではない。

ナプキンをテーブルに置き立ち上がり、失礼しますと頭を下げ、テーブルから

離れた。

家族の誰も引き止めないのがありがたかった。

部屋を出る寸前、振り絞ったようなお袋の声がした。



「あなたが選んだ方は、どんな方かしら」


「一緒に戦っていける相手だと思っています」


「まぁ、頼もしいこと。いつ紹介してくださるの?」



どこの誰かとも聞いてこない。

人物像のほかに詮索はなく、母親の反応としては、かなり肝が据わったものと

いえよう。



「いつでも紹介するよ……でも、お母さんも知ってる人だよ」


「どなたかしら……」


「あとは静夏に聞いて」


 
あわてる妹の姿を知りながら部屋から走り出た。



「宗、待ってよ、私に全部押し付けるなんてひどいじゃない、待って!」



怒りの声が背中に投げられる。

それくらいいいじゃないかと、走りながら独り言が出た。


今夜のことを珠貴に告げたら、どんな顔をするだろう。

これから呼び出して喜ばせよう。

『話がある。夜のカフェへ来て』 とだけ送ったら来てくれるはずだ。

メールの文面を考えながら、やけに軽くなった心を抱え家を飛び出した。