「……っ、どうした!?」
何度も何度も、頭の中で朔杜だと繰り返しても、心がそれを拒絶する。
アイツはここに居ないと分かっているのに、俺の躰を訳の分からない嫌悪感が駆け巡る。
ただただ気持ち悪くて、苦しい……。
「ぅ、ああぁぁっ!」
「──ヒメノ!!」
強く肩を揺さぶられて、ぼやける視界に心配そうな顔をした朔杜が映る。
自分でも何が何だかよく分からない。
勝手に涙が零れ落ちて来て……。
「──……ッ!」
力任せに朔杜を押し退けどうにかドアを開けて、文字通り俺は車外へと転がり落ちた。
セダンタイプの車と違って、SUVは車高が高い。
強かに打ち付けた肩の痛みで我に返ったけど、すぐに立ち上がる気力なんて無かった。
「ヒメノ」
低く呼ばれて、思わず肩が揺れてしまう。
「……悪かっ──」
「──謝んなくて、いい。悪いのは……俺だから……」
これ以上、朔杜の顔を見ていられない。
何も、聞きたくない。
「おい、ヒメノっ」
ふらりと立ち上がって、朔杜の制止を無視して車を離れた。
ここからなら、30分も歩けばアパートに着くはず。
それに、独りで歩いていれば身体を支配する嫌な感覚が抜けるだろうから。


