「ヒメノ、考え直せ」
会ってしまえば……朔杜の言う通りだ……。
俯く俺に、低い声が降り注ぐ。
「黒崎と別れて、俺のものになれ」
「……ッ」
──結局それかよ……!
肩の手を解いて、俺は朔杜を睨み付けた。
「何度も言わせるな! 俺は恭介と別れる気は無いんだ!! お前が俺を欲しがるのは、朧に張り合いたいだけだろ!? 過去に囚われてんのはお前もじゃねぇかよっ!」
朧という存在は、俺達の中で大き過ぎて。
俺達の前から勝手に去って行ったのに、それでも、消えてくれない。
「……ッ、お前は、朧を忘れられるのか?」
「朧のことは、忘れられない。でも、それで良いんだ」
「恨んでたんじゃないのか?」
「最初はそうだった。裏切られたって思ってた。でも、恭介と話してるうちに……」
俺が恭介の名前を出した途端、朔杜の顔が一層険しいものに変わった。


