プリンセスの憂鬱【BL】(※仮)

 
***


 恭介と2人で暮らすアパートに帰り着いた途端、足から力が抜けて動けなくなった。

 這うようにしてベッドに潜り込む。

 微かに香る恭介のにおいに、不覚にも涙が零れた。

 ──早く、早く帰って来い!

 布団から顔だけ出して見えた目覚まし時計は、まだ17時で。

 恭介が帰って来るまで、まだ5時間以上ある。

 どうしようも無い現実に、また目頭が熱くなって来た。

 勝手に零れて来る涙を袖で拭って、ポケットに入れたままのスマホを取り出す。

 1人で居る事が嫌で、誰かの声が聞きたかった。

 電話帳を操作して、朔杜……陣……と名前を見つけてはスルーしていく。

 やっぱり、今聞きたいのは恭介の声だ。

 ほんの数ヶ月前までは家主と居候の関係だったけど、今ではもう恋人同士だ。

 それまでの俺は恋愛なんて面倒だって考えてたけど、恭介に逢ってからは変わったみたいだ。

『恭介』って名前が同じ事以外は共通点が全くない俺達だけど、案外うまくやっていけてると思う。

 少なくとも今の俺には、恭介の居ない生活なんて有り得ない。

 その程度には惚れてしまっている自覚はある。

 だから……早く帰って来い!


「………っ」


 こんな事をするのは何だか悔しいけど、ひとつだけメールを作成する。

 送信相手は、恭介。

『はやく帰って来い』

 それだけを送って、ベッドの空いているスペースにスマホを投げ捨てた。

 すぐ隣にある恭介の枕を引き寄せて、俺は布団の中で小さく身体を丸め込んだ。