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恭介と2人で暮らすアパートに帰り着いた途端、足から力が抜けて動けなくなった。
這うようにしてベッドに潜り込む。
微かに香る恭介のにおいに、不覚にも涙が零れた。
──早く、早く帰って来い!
布団から顔だけ出して見えた目覚まし時計は、まだ17時で。
恭介が帰って来るまで、まだ5時間以上ある。
どうしようも無い現実に、また目頭が熱くなって来た。
勝手に零れて来る涙を袖で拭って、ポケットに入れたままのスマホを取り出す。
1人で居る事が嫌で、誰かの声が聞きたかった。
電話帳を操作して、朔杜……陣……と名前を見つけてはスルーしていく。
やっぱり、今聞きたいのは恭介の声だ。
ほんの数ヶ月前までは家主と居候の関係だったけど、今ではもう恋人同士だ。
それまでの俺は恋愛なんて面倒だって考えてたけど、恭介に逢ってからは変わったみたいだ。
『恭介』って名前が同じ事以外は共通点が全くない俺達だけど、案外うまくやっていけてると思う。
少なくとも今の俺には、恭介の居ない生活なんて有り得ない。
その程度には惚れてしまっている自覚はある。
だから……早く帰って来い!
「………っ」
こんな事をするのは何だか悔しいけど、ひとつだけメールを作成する。
送信相手は、恭介。
『はやく帰って来い』
それだけを送って、ベッドの空いているスペースにスマホを投げ捨てた。
すぐ隣にある恭介の枕を引き寄せて、俺は布団の中で小さく身体を丸め込んだ。


