「……俺も嫌われたもんだな。兄さんの結婚式は来月の25日だ。遅くても1週間前までに連絡してくれ」
そう言うと、俺の手に無理矢理名刺を捻じ込んで来た。
その場でグシャグシャにして破り捨ててしまいたかったけど、1番上の兄貴の事を思うと出来なかった。
多分、兄貴は俺の居場所を知ってる。
ここで会ったのは本当に偶然だろうけど、その気になれば、いつだって俺の前にやって来れるに違いない。
「大丈夫か?」
ヨロヨロと立ち上がる俺に、兄貴が声を掛けて来る。
それを無視して、俺は部屋から出て行った。
そこは診察室の向かいにある部屋だった様で、偶然そこから出て来た看護師と鉢合わせてしまった。
「顔色が良くないですけど、大丈夫ですか?」
「……すみません。ありがとうございました」
とにかく、早くここから出て行きたかった。
適当に返事をして、今度こそ眼科を後にした。
隣の店でコンタクトレンズを買って帰る予定だったけど、そんな余裕なんて無い。
もたつく足をどうにか動かして、電車に乗り込んだ。


