プリンセスの憂鬱【BL】(※仮)

 
「こんなところで会えるとは思わなかったよ」

「…………」


 俺だってそうだ。

 実家からそれなりに離れている場所だし、兄貴の会社だってこの付近じゃない筈だ。

 それなのに、なんで……。


「元気そうで、良かった」

「…………」

「父さんも兄さんも、お前の事を心配してるんだ。たまには、家に帰って来ないか」

「……るせぇよ、今更なんのつもりだ。何もなかったフリして兄貴ヅラしてんじゃねーよ!!」

「恭介……」

「気安く呼ぶんじゃねぇ」


 名前を呼ばれるのは、本当に嫌いだ。

 確かに俺の名前なのに、コイツに無理矢理ヤられたあの日からはそう感じられなくなった。

 誰からも、呼ばれたくない。


「…………」


 ここに居る事が耐えられなくなって来た俺は、枕元にまとめて置いてあるスマホと財布、処方箋を引っ掴むと、足早に扉へと向かった。

 まだ視界がグラつくけど、気にしてる場合じゃない。