裏面ワールドトリップ

モーリッツは更に顔を近付け、真正面から至近距離で私の目を覗き込んだ。


「俺の妻になれば、欲しい物は何でも与えてやる。


俺は遠からず、この世界を丸ごと手中に収める男だ。

世界を破滅させたいならそれも可能、全てが俺の思い通りになる。


……そこへお前の才能を活かすというのも悪くないな。


見たところ、元いた世界には随分ご不満をお持ちのようだが

どうする、『女神様』?」



――不満……。



一度は頭の外へ押し出した感情が、再び蘇った。



そう、忘れてたけど

こちらの世界での任務を終えたら私は元の世界へ戻って、また面接に落ち続ける日々が

――いつ報われるかもわからない努力を繰り返す日々が――

始まるのだった。


こちらの世界で、いくら大きな仕事を成し遂げたとしても

元の世界へ帰った後の事は、誰が保証してくれるわけでもない。


私は元通りの、無職で独身の惨めな三十路女でしかなくなってしまう。