「ノック、気づかなかったの?」


「全く気づかなかったです。」


「…何かあった?」



さっきまでの無邪気な笑顔を引っ込めて、真剣な顔に切り替わった先生。


こんな些細な会話の中に、何か引っ掛かりを感じたようだ。




「少し、ボーッとしていただけですよ。」



日々の学校生活に、生徒会の仕事、勉強も手が抜けないし、教師のご機嫌とりも怠れない。


オレは未だに、のぞみ先生以外の教師の前では、優等生の生徒会長という仮面を剥がせないでいる。


別にそれが辛い訳じゃない。


のぞみ先生が来てから、オレの生活は格段に楽になったし、息抜きのできる場所もできた。



それでも、たまにはこうして、一人でなにも考えない時間が必要なんだ。



それは、校庭を眺めるでも空を見上げるでも、なんでもいい。



なにも考えないで、ただそこに自分が存在するだけの感覚が、とてつもなく自分を癒してくれる。