『神谷君、今晩は。忙しかったかな?』
「いえいえ、ちょっと電話を避けてまして、気付かなかったんです。すみません」
俺がそう言うと、電話の向こうで滝本さんが小さく笑った。
『・・・電話を避けてた。また女性との離別かな、君も懲りないね』
ぐっと詰まる。どうしてバレるのだろう。あんな少ない情報で。それとも俺っていつでも彼女に捨てられてるイメージがあるのかな。
くくくく・・・と笑う滝本さんに言う。頼みますよ、苛めるのは勘弁してくださいって。
『申し訳ない。さて、話なんだが、君はS出版の紀行記事を書いたことがあると言ってなかったかな?』
あっさりと追求は放棄して、滝本さんはそんなことを言う。
俺は天井を睨んで考えた。・・・S出版?ああ、はい。あったあった。
「はい、ありましたね。2年前っすかね」
言いながら部屋に一つしかない箪笥まで歩く。ここら辺に名刺を突っ込んでいるはず―――――――――
『その時の担当者、森名木さんて人じゃなかったかな、と思って』
ガサゴソと引き出しを探って、ようやく見つけた名刺には堀田と書いてある。
「・・・いえ、担当者は堀田さんです。森名木さんって編集部の人ですか?」
『そうなんだが・・・違ったか。質問はそれだけだったんだ。お邪魔したね』
滝本さんがふんわりとした雰囲気で電話を終らせようとしている。俺はその時、何故か急激に興味が沸いて口走ってしまった。
「た、滝本さん!」
『はい?』



