ここには去年も来ているのに、何だか去年と見え方が違うの。
それはきっと、自分がこの場所で演奏するからだよね?
試合が始まる直前、あたしは軽く音だしをした。
今日は楽譜はない。全て暗譜。
コンクールなどでは曲の強弱の暗譜も必要だけど、ここではとにかく遠くに音を届けなければいけない為、とにかく大きな音で吹くことが重要だ。
風で唇に髪がくっつかないよう、キツクひとつに結ぶ。
「新堂さん。いよいよだね」
隣に座る長谷川さんが、あたしを見てニッコリ笑うので、あたしはコクンと頷いた。
「長谷川さん、あたしを誘ってくれてありがとね」
風が目にしみて細めがら言うと、長谷川さんもあたしと同じように目を細めた。
「こんなにワクワクするの、すごく久しぶりなの!!
またこうやってトランペットを吹けるのも、あたしの背中を押してくれた長谷川さんのおかげだもん!!」
周りからは、既に応援団などの賑やかな声が響き、あたしの声なんてすぐに消されてしまう。
でも、長谷川さんが目を丸めて驚いたから、きっと届いたんだと思う。