「おーい駒居ぃ。生徒会議の資料はできたかー?」



学校の騒がしい昼休み中でも筒抜けの、通る声で呼ばれたのは生徒会長の駒居優羽だ。


呼んだのは生徒会担当の教師。


資料片手に廊下を歩いていた優羽は、教師の方へ振り向いて、



「この通り。今からコピーして綴じます。」



と、軽く腕を挙げて資料をパサパサと振った。



「おー!さすがだなー!よろしく頼むぞ。」

「わかりました。」



教師はそのまま手伝う素振りも見せずに去っていった。



その姿を優羽は笑顔で見送った。







梅ヶ丘学園高校3年、駒居優羽〔こまいゆう〕。
3年A組、生徒会役員会長、成績は常に首位、スポーツ万能で文武両道の完璧な優等生である。




学園はA組からF組の6クラスに分かれており、学力レベルで毎年クラス替えになる。


A組が最もレベルが高く、通称《特進組》と呼ばれている。


A組で学びたくて遠方から通う生徒もいるが、学力レベルと競争率が高く難易度はかなり高い。




そんなクラスの、しかも常に成績は首位、さらに生徒会長の優羽は、周りの生徒から一目置かれる存在になっていた。



廊下に立っているだけで視線を集めてしまう優羽だが、本人は気にする素振りも見せずに、教師がいなくなったのを確認してから目的地へ移動しだした。



トンッ…!



「あっ!」

「…っと、失礼。大丈夫ですか?」



渡り廊下から歩いてきた女子生徒とぶつかったのだ。


相手が優羽であることに気付いた女子生徒は慌てふためき、周りの生徒たちもざわめいた。



「あのっ…!ごめんなさい!」



女子生徒が頭を下げて謝った。



「いえ、頭をあげてください。僕が前を見ていなかったのが悪かったんです。」



恐る恐る頭を上げた女子生徒に、



「すみませんでした」



と優羽は頭を下げた。
そして驚いて固まっている相手に向かって、



「それでは」



と、にこやかスマイルで声をかけてその場を後にした。






…にこやかスマイル→別名《悩殺スマイル》。






多くの女子生徒がこれにより、優羽の虜になってきた。



遠巻きに見ていた時の優羽の近寄り難いイメージが崩れ落ち、そして今日もまた1人虜になった。