「あーあ…今日も疲れたなぁ〜」
そうぼやきながら私は"いつもの場所"へ向かう。
"いつもの場所"とは私が1年前、入社したての頃、失敗して落ち込んでいた時に見つけた場所だった。
いつもの帰り道より人通りの少ない道を選んで歩いてたら偶然みつけた。
ずっと昔から…
そう、
何百年も昔から忘れられていたような…
そんな神社だった。
そこの境内に座って眺める月はなんとも言えない美しさだった。
その日から私は毎日その"いつもの場所"に通っていた。
今日もいつも通り神社に向かった。
「今日は満月だな…」そうつぶやく。
いつものように境内に腰を降ろそうとしたその時。
不意になにかが動いた気がした。
「な、なに?」
すると、そこには月の光に照らされた1人の美青年が立っている。
場違いのような、時代を間違えてしまったような浅葱色の羽織を着て…
だけどそんな驚きと裏腹に、
"なんて素敵な人なんだろう…"と思ってしまう自分もいた。
「あの〜」
遠慮がちに前の美青年は、声をかけてきた。
「はっはい⁈」
初対面の人に見惚れていた自分にびっくりして返事の声が裏返る。
…‼〜恥ずかしい…
前に立っている美青年はクスクス笑いながら優しい笑顔で話かけてきた。
「ここはどこですか?」
「は?」
思わぬ質問に聞き返してしまう。
「屯所に帰りたいのですが…」
⁇⁇…とん…しょ…⁇
前の美青年が続ける。
「僕、巡察の途中で不思議な神社をみつけて先に隊士たちを帰してから1人でよってみたのですが…
急に意識が遠退いて気づいたらここにいたんです。」
わけのわからない話に混乱する。
じゅんさつ…?たいし...?
普段、聞き慣れない単語に耳を疑う。
でも彼は冗談を言ったわけではなさそうだし…
戸惑う私を見て彼は慌てて謝る。
「あ、その…すみませんっ‼あ、後は自分で探しますから…」
「え?こんな遅くにですか?」
思わず尋ねてしまう。
すると彼は言葉につまって黙り込んでしまった。
その表情が子供みたいで可愛らしいと感じてしまい…
「あの、今日は遅いですし明日にしてはどうですか?明日なら私も休みだし…」
「でも…」
「?」
「多分、そんな事を連絡なしにしていては切腹も免れませんし…」
…切腹?
私はこの人はいつの時代の話をしているんだろう、それに連絡なんて携帯で取れるのにーそう思った私は彼が冗談を言っているのだろうと笑った。
すると彼はキッと私を睨んだ。
「な、なんですか?」
私は彼の冗談を笑っただけなのに…
「“切腹”と聞いて何故笑っていられるのですか?」
彼は少し早口で言う。
「え、冗談ではないのですか?」
青ざめた私に彼は
「"新選組"の局中法度をご存知ありませんか?あの規則を破ると即座に切腹を命じられるのです。」
…?新選組?
この人は一体、いつの話をしているのだろう。
その時ふと思い出す。
大河ドラマで見た浅葱色の羽織を…
「⁇‼」
ま、まさか…
「ごめんなさい…失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいですか?…」
そんなわけないよね?
まさかタイムスリップなんてあり得ない話だし…
羽織も全部ただのコスプレだよね?
彼はフっと優しい笑顔に戻り、
「新選組一番組組長、沖田総司と申します。その証拠にこの刀、菊一文字がここにございます。」
〜⁈ 頭が混乱してきた…
まさかのまさかかも…
今時、腰に刀をかける人や着物の人なんていないし…
タイムスリップしてきたという方が一番しっくりくる…
とりあえず、この人は100%屯所なんて帰れない。私の家に連れて行くしかないよね…?
そうしないとこの寒い中外に居る事になっちゃうし…
「あの…」
遠慮がちに沖田さんに声をかける。
「紹介が遅れました。私は杉田 希です。
屯所の件は説明すればわかってもらえると思うし、私の家に今日のところは泊まりに来てください。あなたの寝る場所くらいは確保できるので…」
沖田さんは戸惑っていたけど私が必死に訴えるとわかってくれた様子で、
「それでは今日のところはよろしくお願いします。」
と礼儀正しくお礼をした。
「あ、でも…」
沖田さんは顔を赤らめながら、
「女性の方の家に泊まりにいくのは…」
と言った。
……っぷ!
私は思わず吹き出してしまった。
「な、何故笑うのですか…」
彼は顔を真っ赤にしながらあせる。
ーーちょっと可愛いと思ったから
なんて言えないから、
「大丈夫です。気にしないでください。
なんでもありませんから。」
そう答えた。
沖田さんはちょっと不思議な顔をしたけど私は気にせず
「では、行きましょう!」
と明るく言って、彼を少し押した。
でも本当は、これからどうしよう?とかもといた時代に帰してあげれるかな?とか不安がないと言ったら嘘だった。
でも沖田さんのためならなんとかなりそうと思った自分もいた。

続く…