そもそもの話、自分が凜を誘拐などしなければこんなことにならなかったかも知れないと思うわけで、些かの自己嫌悪から今回助けてやろうと思った部分だってあるくらいだ。

無論、そんな五木の心情など知る由もない凜はうつらうつらと頭を揺らしているわけで。


「―――――夜、だな……」


細い道、周りには草木が生い茂る。

時折風が吹いては草木を揺らし、それは五木の前髪を、凜の服を、優しくなでてくすぐった。

まるで、「道はこっちであっているよ」と示し、「偉いね、もう少し頑張れ」と褒め激励し、「今はもう少しお休み」と安心させてくれるかのように。

ほどなくして聞こえてくる凜の寝息。

五木は一度だけ足を止め、空を仰ぎ見た。

一つ、月が輝いていた。

ただ、満月ではない。


「どう、やったら。こんな連鎖、断ち切れるんだよ……なあ。わかんねえんだよ。これ以上、命差し出してどうするってんだよ……」


――――――自分たちが生きながら得るために、この村は今まで何人の命を――――――……


そこまで呟き、考えて。

やめた。