「だまれ。お前がその名を口にするんじゃねぇ。もしそのまま言い訳でも言おうってんなら、場違いだぜ?ここで俺の気を悪くさせるのは得策じゃない—————わかるな?」


険しい表情、鋭い目つきでもってシンを黙らせにかかる。

それに応じる事はなく、静かに口を閉じて続けようとした言葉を飲み込んだシンは、鉄格子越しにそっと優しく凛の肩を押した。


「五木についていけ」


「え、」


いくらこの場で二人の話を聞いていたとはいえ、戸惑ってしまうのは致し方ないだろうか。

凛は、五木に一度誘拐されている。

それも、今からさほど時間は空いていない。


「今はこれしかない。大丈夫だ。……大丈夫だ」


力強く、真っ直ぐに見据えてくるシンの眼差しのなんと心強いことか。


この人さえいればどうにでもなる、また今のように何かあればとんできてくれるのではないかと。

そう思ってしまえるのだから、もうどうしようもない。

一歩、二歩と後ろに下がり、五木に近づいて。


その間、シンと目を合わせたまま。

なぜか無性に切なく、悲しくなって、目尻から溢れようとする涙を堪えた。


「村の外れの祠の前で合流だ。問題ないな?」


律儀に問題ないかと聞いてくるあたり、たしかに今この場においては信頼できそうであるとシンは思う。


「問題ない。頼んだぞ」


「あぁ」


フワッとあたりに白い煙が舞い。


「シンさん…………!」


そんな、リンが己を呼ぶ声を最後に二人は姿を消した。


しばし、己の手のひらと見つめ合う—————………自分の力で凛を守れなかった、その無力差が余りに、余りに嫌で嫌で仕方が無い。








カラン。
廊の中で一つ落ちた古びた鉄の音と。


複数の足音に、シンは気付く、そして悟る。
五木が仕向けたことを、そして己のやるべきことを。

見つめていた手のひらを、そっと閉じた——————————