それに部活のとき、琴里がいつもと違うのにだって、すぐに気づいた。



「……琴里、化粧してんの?」

「え?」



声をもらして目を瞬かせる彼女の顔は、やっぱり少しだけ、普段と違って見える。

琴里は顔の横の髪を耳にかけながら、どこか照れたように笑顔をみせた。



「あ、うん。へへ、さっき辻くんも、めずらしくほめてくれてさ」



……やめろ。その笑顔は、誰に向けられてる?

薄く色づいた頬とか、自分を見上げる瞳とか。

俺以外の男のために着飾る姿なんて、見たくない。


くるりと、俺は琴里に背を向けた。



「……ない、」

「え?」

「ッかわいくない! 似合わない!!」



あたりはすでに暗く、その空間に、自分の荒い声がやけに響いた。

言ってしまってから、ハッとして。すぐに俺は、後ろを振り返ろうとした。



「……ッ、」



けど、それと同時に彼女も、何も言わないままどこかへ走り去ってしまう。



「こ、とり……」



……そのときに一瞬見えた、琴里の表情。

たぶんきっと、2度と忘れられないだろうなって、思った。