「それでさぁ―――」

橘の話を右から左へと聞き流す。
それは、先ほどの話が
僕の中に残っているから。



僕の親は勉強にうるさい。
とはいっても、普通の家庭に比べれば、
ってほどで、普段は普通に優しい。


僕が得意の数学のテストで
初めて学年1位を取ったとき、
すごく喜んでくれた。

お母さんはわざわざケーキまで
買ってきてくれた。



問題はその後だった。
基準が上がってしまった。

何かテストが返ってくるたび
一応褒めてはくれる。

ただ、最後の一言は
「この間のテストは――」
「数学のテストは出来るのに――」

こんな事なら、勉強なんて
頑張るんじゃなかった。

僕はただ喜んで欲しかっただけなのに。


その頃からだろうか、
僕の中で、僕が壊れ始めたのは。


成績を落としたくなかった、
僕のせいで家の雰囲気を
悪くしたくなかった。

毎回、前回の自分を越えなければならない。


何事においても悲観的になった。


無意味な褒め合いも増えた。




僕はどうすれば良かった?