僕がそこらじゅう駆け回った最後に


目に入ったのが、人混みの中、通り行く人に

怯え、小さく小さくうずくまる井上さんだった。


「はぁっ…はぁっ……井上さんっ!」


僕は彼女に手を伸ばした。


井上さんはその泣き顔をふっと持ち上げて、

僕の手を取った。


「怖かったっ…怖かったよぉっ……。」


井上さんはぶわぁっと泣いて僕の手を離さず、

そこから1歩も動くことも出来なかった。


下を向いてしゃがんだまま彼女は涙を溢す。


人混みに流されていく人々が僕達の

すぐ横を上下左右に通り過ぎていく。