かりかり……

物があまり置いてなくて
シンプルな家具ばかりで
綺麗に整頓された部屋には
2人のシャーペンがノートに文字を書き込む音と、消しゴムを机に置く音しか聞こえない


『……』
「……」

2人きりの空間なのに、完全に自分の世界に入って問題集と格闘する


『……』

…ぁれ、答え合わない
…どこで間違ったんだろ…
指で式をなぞって、計算を確かめる

………分かんない…


『……ねえ』

「…何」

目の前で黙々と問題を解き続ける
最近彼氏になった(はず)の男の子に声をかけると、顔も上げずにぶっきらぼうに答えた

『分かんないんだけど…教えてくんない…?』
「どれ」

ノートを彼に向けた
少しだけ顔を上げて、彼がノートを受け取った
黒ブチの四角いメガネの奥で、あたしの書いた式を目で追った


「……お前、高3にもなってこんなので前違えんなよ」
『え、嘘』
「これ」

立ち上がって、隣に回った
少し傾けられたノートを覗いた
黒いシンプルなシャーペンの先で、あたしの式を指した

「代入間違ってる。お前自分でxって書いてあるのにyになってる」
『…ぅわ。ホントだ…ありがと…』