「お母さん、心配してたんだよー。
またお兄ちゃんが横着してないかって」
「……横着?」
笑いながら隼人が聞き返す。
すると、あやちゃんはもったいぶって言葉を返した。
「美優ちゃんの前では言えないでしょ?
あの頃のことなんて」
いや、あたしは知っているけど……
だけど隼人も、
「それは困るね」
そう同調した。
三人で笑いながらエレベーターに乗り、廊下を歩いた。
そしてたどり着いた先のドア。
そこには「橘」と書かれた表札がかけてあって、隼人の家だと想像がつく。
隼人のお母さんに会う前に心の準備をしなきゃと思うのに……
「たっだいまぁ!!」
あやちゃんは大声で玄関の扉を開けた。



