「……………奏ちゃん、あのさ…」


「あーもう。どーしたらいいんだろうね」




沖田の言葉を遮り、奏は腕をうんと伸ばした。


沖田は二の句を継がなかった。


継げなかった。


奏が笑顔のまま涙を流していたから。




「私、二回も桜花を失うんですね。栄太も」




皇彼方に対する罪状は酷く重い。


それに荷担する者の罪も同様になるはずだ。




「本当、何がしたいんでしょうね。皇彼方は」




大事なものを次々と奪われていく。


父様も母様も里の人達も、今度は栄太や桜花まで。


私が憎いなら、私を狙えばいい。


なのに、こんな……。




「栄太や桜花の方は俺達に任せろ」


「いいえ。私が」


「だけどよ…」


「いいんだよ、平助。これも罰だから」


「罰?一体何のことなんだ?」




不安そうに尋ねる近藤に、奏は薄く笑った。




「………芹沢さんの局長命令を守らなかった罰ですよ」


「芹沢さんのって」


「あ、おい!!奏!!」


「どこ行くんだ?!」




奏は答えず、そのまま屯所から姿を消した。




「僕が行ってきますよ」


「総司、一人で大丈夫なのか?」


「当たり前です。むしろ来ないでください。…あぁ、それと。珠樹君が帰ってきたら足止めしておいてくださいね?」


「………分かった」




今、里に行って留守中の恋敵のことを念押しして、沖田も大広間から出ていった。


当てがあるのかは分からないが、ここはあいつに任せよう。


長年に渡り側に寄り添い続けた奏の部下である青年はもういないのだから。


どこにも。


奏はまだ、それを知らない。